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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2290号 判決 1976年4月28日

控訴人(被告)

新妻政寿

被控訴人(原告)

村田勝治

ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証は次に付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  主張関係

(一)  控訴人は、原審において、六七年式三菱ふそう自動車(足立一う五六三五。被告車のこと)が控訴人において保有していることを認めたが、右は真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから、これを撤回する。すなわち、

控訴人は、もと被告車(福島一ゆ七四一八自家用貨物自動車)を訴外福島三菱ふそう自動車販売株式会社(以下「福島三菱ふそう」という)から購入して、所有・使用していたが、これを昭和四二年九月頃訴外扶桑運輸株式会社(以下「扶桑運輸」という)に売り渡し、福島三菱ふそうの社員小松省吾に対し名義等の変更登録手続を委任し、同人は昭和四二年九月二〇日扶桑運輸のため、被告車を足立う五六三五営業用貨物自動車として名義書換等の変更登録手続をし、被告車は本件事故当時・扶桑運輸において所有・使用していたもので、被告車の保有者は扶桑運輸であつて控訴人ではなく、したがつて原審でした自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものであつて、これを撤回する。

(二)  被控訴人は、右自白の撤回に異議を申し立てた。

二  証拠関係〔略〕

理由

当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果に徴しても、控訴人は、被控訴人らに対し原審において認容された限度において、損害賠償責任を負うべきものと認め、その判断は、次に付加するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

控訴人は、原審においてした被告車の保有者である旨の自白に真実に反しかつ錯誤に基づくから、これを撤回する旨述べるから、その当否について検討する。

成立に争いのない乙第三号証(自動車登録原簿)によると、被告車は、昭和四二年九月二〇日使用者を控訴人・使用の本拠地を福島県いわき市久之浜町田之網字浜川三三番地として新規登録され、昭和四二年一〇月一八日東京都に登録換え、同年一一月一五日使用の本拠地を東京都足立区東栗原町二一八九番地と変更登録され、昭和四三年八月二九日使用者が控訴人から扶桑運輸に変更登録され昭和四五年一月一〇日抹消登録されていることが認められる。

そして、自動車登録原簿は、自動車の車名及び型式・車台番号・原動機の型式・所有者の氏名又は名称及び住所、使用の本拠の位置・取得の原因(道路運送車両法七条)が登録され、その登録事項の変更・抹消は登録自動車の所有者において原則として申請すべきものとされている(同法一二条・一五条・一六条)ことに鑑みれば、登録事項として記載されたものについては所有者はその登録事項について申請行為をしたものと推認され、したがつて、格別の反証のないかぎり、当該記載された登録事項どおりの行為が存在したものと推認される。

ところで、控訴人は扶桑運輸に対し昭和四二年九月二〇日頃被告車を売却し、名義書換手続をとつた旨主張し、その主張に添う乙第六号証の記載と証人小松省吾の証言および控訴人本人尋問の結果もあるけれども、控訴人本人尋問の結果によれば、被告車を買い受けてから扶桑運輸に売却するまで相当期間運行に供していたことが認められるから、もし昭和四二年九月二〇日に扶桑運輸に売却したとすれば、他の車の車台番号を付してか又は何ら車台番号を付しないで違法に被告車を運行していたということになり、常識に反することである(同法四条参照)から、昭和四二年九月二〇日頃に扶桑運輸に売却し名義書換手続をとつた旨の証人小松省吾の証言・控訴人本人尋問の結果及び乙第六号証の記載は、日時に関するかぎり措信しがたい。

また成立に争いのない乙第四、五号証と前記乙第三号証を総合すると、昭和四二年一一月一四日に、使用者・扶桑運輸、新たな使用の本拠の位置・東京都足立区東栗原町二一八九番地(扶桑運輸の所在地)とする旨の扶桑運輸作成名義の自動車検査証書換申請書(乙第四、五号証)が提出され、その結果、翌一五日受付で、乙第三号証の使用の本拠の位置変更欄にその旨の記載がされたことを窺うことができるので、その頃、被告車が扶桑運輸に譲渡されたのではないかとの疑問も起きるが、控訴本人尋問の結果によれば、控訴人は、被告車を買い入れた後、いわき市から横浜市港北区日吉町に移住し、扶桑運輸と知り合い、暫時下請の形で被告車を使用し貨物の運搬業務に従事していたことが認められるから、その使用の本拠を当時密接な関係にあつた扶桑運輸の所在地と変更するについて便宜扶桑運輸の名において申請したものとも考えられるから、右乙第四、五号証をもつて控訴人主張事実を認めるに足る確証とはしがたい。

そうだとすると、他に的確な証拠がない以上、登録原簿に記載されたとおり、使用者が控訴人から扶桑運輸に名義書換えられた昭和四三年八月二九日に近接した頃控訴人から扶桑運輸に被告車が売却されて、その頃被告車の使用者の地位に変動を生じたものと推認するより外はない。

以上の事実によると、本件事故が発生した昭和四三年三月一六日前に、控訴人から扶桑運輸に被告車が売却され使用者の地位に変動を生じた旨の事実は、これを認めることができないというべく、したがつて控訴人の原審における自白が真実に反するものとは判定しがたく、前記自白の撤回はこれを許すことができないというべきである。

そうだとすると、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は原判決の認容した限度において理由があるから、原判決の判断は正当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正二 小堀勇 奈良次郎)

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